【国際協力の知識】途上国の貧困は本当に減少しているのか?

貧困は減少している?国際協力
貧困は減少している?
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世界の貧困は今どのような状態にあるのでしょうか?
アフリカ諸国を中心に「貧困」は長い間、解決すべき社会問題とされ続けています。
世界の貧困は減少しているのか、増加しているのか、正しく知っていなければなりません。

マラウイで貧困問題を目の当たりにしている私の経験も含めて「貧困問題」について書いてみたいと思います。

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【国際協力の知識】途上国の貧困は本当に減少しているのか?

バラック街
※イメージ

貧困」は人間社会において問題とされてきており、解決が難しいと考えられている事の一つでもあります。
特に「世界の途上国では貧困が広がっている」と思っている人は結構いるのではないでしょうか?

実際には世界の貧困は年々減少していっています。
しかも、今のところかなり良いペースで減少していっています。

世界における1日1.9ドル未満・3.2ドル未満・5.5ドル未満(2011年米ドル基準)の貧困人口割合(世界銀行,1981–2017)
世界における1日1.9ドル未満・3.2ドル未満・5.5ドル未満(2011年米ドル基準)の貧困人口割合(世界銀行,1981–2017)

このグラフでわかるように、世界銀行が「貧困ライン」としている「1.9ドル」を基準に貧困人口が毎年減少しています。

「1.9ドル」については別記事で詳しく書いていますので、参考にしてください。

全世界で極度の貧困の中で暮らす人の数は、1990年の19億人から2015年の8億3,600万人へと半分以下に減少しました。
人数ベースでいうと25年間で半数以下になっています。

今後も過去10年間の経済成長率が維持されると仮定すると、2030年までに「1.9ドル」以下で生活している人口割合を4%へと低下することが見込まれています。
世界銀行も2030年までに3%まで低減させることが可能であるとしており、国連はSDGsの目標として「撲滅」を掲げています。

正直どちらも実現するのは無理だと思います(理由はのちほど)。
数字の減少傾向から「3%」はある程度可能のように一見思われますが、この先には高い壁があるはずです。
「撲滅」についても響きだけで選んだんだと思います。
世銀も国連もセンセーショナルな言葉や理念を掲げるのには長けていますので、その上で彼らの打ち上げる目標は冷静に見なければなりませんね。

ともかく、今世界では貧困は減少していっています。
特に国際NGO、国連や国連機関の熱心な広報活動により、「貧困」問題は解決されないもののように取り扱われがちですが、人類はこの問題を着実に解決していっています。

事実やデータは正確に受け止めて理解していかなければなりません。
広告を中心にテレビやメディアはどうしても同情的だったり、持ち上げられやすいコンテンツなど、お金になる表現や手法を好みます(資本主義の功罪ですね…笑)。

もし世界の状況、特に途上国について知りたいのであれば、事実を捉える力は相当に必要とされるものです。

ベストセラーとなった「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」は事実を捉えるコツを得られる本ですので、もしまだ読んでいなかったらぜひ読んでみてください。

国際協力に携わる人なら必読ですし、少しでも世界の動きに興味がある人ならかなり刺激を受ける内容です。

FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

世界における貧困の減少は、先進国からの途上国への援助が貧困を減少させているのでしょうか?

私は「資本主義経済」が貧困を減少させているのだと考えています。
途上国での貧困減少は、部分的には援助のお陰もあるもしれません。
しかし、ある研究によると「先進国からの支援額の総量と支援受入国の経済発展との相関が無い」と結論付けているものもあります。

個人的には、途上国の開発分野(インフラと医療を除く)において、先進国は相当な部分で撤退して、当事国に任せるべきだと考えています。
この辺の国際協力の在り方については、別記事で書こうと思っています。

途上国の経済発展の大部分は当該国の自力によるものであり、その経済発展・社会福祉の向上によって貧困層にいた人々が貧困状態から引き上げられていると考えるのが自然です。
実際にマラウイの経済発展を見ても、毎年都市部では新しいショッピングモールができたり、都市整備がされたり、郊外のマーケットが大きくなっていたりしています。
そしてその多くは、国内企業や地元中小事業者によって投資が行われています(もちろん中国系も入り込んでいますが…)。

その発展の陰には海外援助によるインフラ支援があったりするのは事実ですが、やはり発展に必要なのはそのインフラの上にのっかる経済力であり、途上国にいる人々が自力で築いているものです。
(しかしながら一部途上国では、中国企業による異常な投資が行われていることもまた事実ではあります)

何かと「資本主義」という言葉は、国際協力業界にも多い左翼的な立場の方々から嫌われ易いワードではあります。
しかし、この経済の仕組みは多くの問題をはらんでいるものの、今のところ人類の生み出した最善の社会経済システムだと思っています。

ここ数年間、資本主義を語る際によく取り沙汰されるのが「富の格差」です。
途上国での「富の格差」は先進国以上に大きいです。

特に途上国の中でも、南アジアや東南アジアの国にあるような、ある程度経済が発展し、経済成長率の高い国では底辺とトップとの差は凄まじいですよね。

よくこの「富の格差」が問題の根源であるかのように語られることがありますが、この「富の格差」は、果たして問題なのでしょうか?

【国際協力の知識】途上国の貧困は「富の格差」のせいなのか?

貧困問題を語る際に、「富の格差」を取り上げる方をよく見かけます。
貧困問題について「富の格差」を取り上げるとどうも論点がズレるので個人的に好きではありません。

資本主義経済のシステム上、資本(お金)のあるところに資本が集まるのは当然の結果です。
また、資本家と労働者に分けられ、その富に差が出ることも当然の結果です。
(もちろん現代社会においては、その役割は入り混じっているので単純ではありません)

では、格差は受け入れるとして、その格差が拡大すると問題なのでしょうか?

所得水準にみた世界の人口(絶対数)
所得水準にみた世界の人口(絶対数)

格差=貧困ではありません
「富の格差」は昨今、伝えられているように拡大傾向ですが、先ほども紹介したように貧困は世界的に見て減少しています。

「富の格差」が拡大し、トップの数%が世界の富の大半を所有していたとしても貧困がなくなれば良いのだと思います。
「富の格差」が拡大すると本当に貧困は増えるのでしょうか。
私はこの点について論理的に説明している人を見たことがありません。

貧困の解決策の中には、高所得者への課税強化が挙げられます。
富の再分配」というものですね。

「富の再分配」は私も強化すべきだとは思います。
しかし、強化には限界があります。
強化しすぎると富の所有への動機が失われますからね。

また、格差をなくす、というのは究極的には共産主義的な思想となります。
共産主義、社会主義のシステムを採用して長く続いた大きな国家は、人類の歴史上存在していません。

感情的に格差を嫌うのは理解できるところではありますが、どうも論理的ではないように感じています。

貧困解決→手段としての富の再分配→富の格差が縮まる

というのならある程度理解できますが、

富の格差が縮まる→貧困解決

と必ずなるとは言えませんし、フォーカスすべき起点となる問題がずれています。

ここ数年で「富の格差」という言葉の火付けとなったのはトマ・ピケティの著書「21世紀の資本」ですね。
以前から、「富の格差」があることは言われていましたし、アメリカを中心に先進国などでの格差の拡大は問題視されていました。

それをトマ・ピケティがデータを用いて論理的に説いたのが「21世紀の資本」になります。
この本は大ヒットしましたよね。

もし「富の格差」について詳しく知ってみたいと思ったら、この本を読んでみてください。
ただ、「21世紀の資本」は辞典のように分厚くて読むの大変です(笑

21世紀の資本
21世紀の資本

さすがに興味があってもこれを読むのは一苦労だと思いますので、もっと読みやすい解説本をおすすめします。

見るだけでわかるピケティ超図解――『21世紀の資本』完全マスター

これを読んでみて、もっと詳しく読んでみたいと思ったら「21世紀の資本」元祖にチャレンジしみましょう。

21世紀の資本

「21世紀の資本」の中でトマ・ピケティは累進課税の強化を提唱しています。
私もそこについては賛成しますが、トマ・ピケティは「格差をなくすべき」とは言っていません

高所得者には課税強化すべきですが、やはり程度の問題です。
資本主義において資本の所有は基本原則ですし、それを否定するのであれば、共産主義への道を進むことになるはずです。

「富の格差」を語る際には、どうしても感情的になりがちです。
資本主義社会は、機会を公平にすることは努力で実現できるかもしれませんが、富が平等になることはありませ

私は「富の格差が無い社会」よりも、「貧困の無い社会」の方が健全だと思っています。
驚くような大富豪がいて、食べるものに困る人はいない、という社会です。
「格差を無くす」という手法よりもかなり現実的ではないでしょうか。

このように、今世界は「富の格差」を広げながら貧困は減っていっています。
たぶん多くの人が心配しているほど、全体的に見て世界は深刻な状況ではありません。
(紛争や自然災害などの一時的な危機にさらされている貧困状態はまた別問題として)

しかしながら、世界の貧困には致命的に解決の難しい問題が年を追うごとに明らかになってきています。
その問題について紹介します。

【国際協力の知識】途上国の貧困は減少しているが…

世界の貧困は毎年減少していっています。
これはもう理解していると思います。

しかし貧困の減少はある地点から鈍化するはずです。
それを示すのがこれになります。

地域別にみた極度の貧困状態で生活する人の絶対数
地域別にみた極度の貧困状態で生活する人の絶対数

南アジア・東南アジアについては、現在知られるように経済発展目覚ましく、貧困は右肩下がりに減少し、世銀の予測では2030年ころには2,000万人ほどにまで減少するとしています。

全体としての貧困が減少していることは事実ではありますが、アフリカのサハラ以南の国々(サブサハラ)では貧困層は毎年微増しているのです。
2013年時点で人口の41%、3.9億人が貧困ライン以下での生活を余儀なくされており、1990年から1.1億人も増加しています。

ただ、こちらのグラフを見ると、サブサハラ(Sub-Sahara Africa)では貧困率が下がっていることがわかります。

地域別でみた極度の貧困状態で生活する人の割合
地域別でみた極度の貧困状態で生活する人の割合

これはそのエリアでの貧困状態の人の「割合」を示したものですが、確実に減少しています。
先ほどの絶対数では微増しているが、割合だと減少している、という状態です。

これはサハラ以南の国々での激しい人口増加が原因です。

全体の割合として貧困率は下がっているものの、爆発的な人口増加によって、絶対数では微増していっているという現象が起きています。

2010~15年の世界の人口増加率が年平均1.18%だったのに対し、アフリカのサブサハラの国々は2.71%と倍以上の増加率です。
マラウイも高い人口増加率を誇っており、2018年で2.6%です。
1家族で5人や6人の子どもがいるのは普通です。

人口の急激な増加が貧困層を増やす原因となっていると言えます。
このことから、よく国際協力の支援分野となる「家族計画」(Family Planning)の重要性がわかると思います。
「家族計画」はどうしてもミクロ的な視点(家族の家計のことや労働力のような話)で考えがちですが、最も意味を持つのマクロ的な部分であり、貧困や食料問題など多くの社会問題にインパクトのある分野だと思います。

ただ、私は「家族計画」については、経済レベルが向上すればおのずと解決されると考えているので、極端に力を入れるべき分野ではないと思っています。
インフラ整備や教育の方が優先度は高いはずです(もちろん教育分野などと同時に行えるところはあります)。

人口増加と共に「貧困の固定化」も問題として挙げられます。

サブサハラ・アフリカに貧困国が集中しているということは、世界で見る固定化の典型として見れます。

また、もっと国単位で細かく見た場合の富裕層と貧困層の経済システムの乖離にも固定化が見ることができます。

貧困の固定化はアフリカだけでなく世界中で見られることであり、珍しいことではないのですが、特にサブサハラではその固定化が激しいと言えます。
その固定化が貧困の減少率を緩くしている原因の一つです。

貧困の固定化の主な原因は社会システム経済システムに壁です。

社会システムとしては、教育の機会が貧困を理由に失われていたり、その土地の社会通念上の偏見(出自や階級)による壁があります。

経済システムとしては、貧困層の経済的・人的資本力の低さと支援の少なさから、中~高所得層のマーケットへの参加機会ができない、そもそもマーケットへの物理的なアクセスが困難(インフラ不足)であることが壁として挙げられます。

このどちらとも人の作ったシステムの問題であって、基本的に(お金の問題がありますが)政治が解決できる壁です。
政治は人がやっていることですので、「それならすぐに解決できるじゃないか」と思うかもしれませんが、政治が機能していないのがまさにサブサハラなのです。

アフリカの政治事情は闇は深いですし、政治体制や官僚構造が汚職にまみれていたり、そもそも政治を行う背景となる資金が足りなかったり、色々掘り下げると問題が多く出てきます。

もちろん国内の政治だけでなく、国家間の関係性や国際企業のアフリカ諸国での立ち振る舞い方など、要因はたくさんありますが、今後の貧困問題で重要なことは「サブサハラ・アフリカに貧困が固定化」して、その解決が「これまでのように容易ではない」ということです。

この先10年後、世界の貧困は解消に向かっていきますが、このサブサハラの貧困はどうなっているのか、そして10年後には各国の政治と世界の対応はどのように変わっていくか、しっかり見て、考えていかなければなりません。

まとめ

子どもたちと海
※イメージ

世界の貧困は、先進国の私たちが過剰に心配する必要がないくらい、毎年確実に減少していっています。
心配はいりません、大丈夫です。

しかも、国際的な海外からの援助とは関係なしに、途上国の各国は海外投資も受けつつも自力で経済発展を遂げてきています。

しかし問題はサブサハラ・アフリカで、ここでは貧困層の絶対数は微増しており、貧困の減少率もアジアに比べて低い状態です。

サブサハラでの貧困は、世界的にも固定化されている傾向が見られ、国ごとに見ても、貧困の固定化は顕著です。

この先10年後にこのサブサハラでの貧困問題は、これまでのアジアを中心とした貧困とはまた別の壁にぶち当たるはずです。

このサブサハラの貧困問題が解決される兆しが見えれば、本当に貧困の無い世界を目指す現実的な手段を話し合うステージに立てるのだと思います。

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