【アフリカ初の逆転勝利】マラウイで行われた2020年大統領選の再選挙

ラザルス・チャクウェラ マラウイ
ラザルス・チャクウェラ
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2020年7月にアフリカ初の出来事がマラウイで起きました。
一度行われた大統領選挙が再選挙となり、一度目に落選した候補者が逆転勝利して大統領となりました
アフリカで大統領選挙の再選挙が行われたのは、ケニアについで2度目となりますが、逆転勝利した例はアフリカ初となり注目を集めています。
この歴史的なマラウイの再選挙については書いてみたいと思います。

私のマラウイ生活で得た個人的な経験ベースでお伝えします。

大統領選が再選挙に至った経緯についてはこちらの記事を読んでください。
私の今回の再選挙についての当時の展望も書いています。

ラザルス・チャクウェラの勝利を伝えるアルジャジーラのニュース

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【2020年再選挙】アフリカ、マラウイの大統領を決める選挙システムとは?

投票するマラウイ人女性

アフリカ、マラウイで2019年6月に行われた総選挙が、憲法裁判所の決定により大統領選挙のみ再選挙を行うことが言い渡されました。
2020年6月に行われた再選挙は大統領選挙のみですが、通常マラウイの総選挙では大統領、国会議員、地方議会議員が決められます。

大統領

マラウイの国家元首(政治のトップ)はアメリカやフランスと同じ「大統領」となります。
投票方法はとてもわかりやすく、全有権者が大統領候補者の中から一人選び、最も多く得票した候補者が大統領となります。

国会議員

大統領と共に日本の「国会」にあたる議会として、「National Assembly」があります。
こちらの議員は小選挙区制にて全国から194名が選出されます。

地方議会議員

各地方行政区(District)で選出され、定数は区によって異なります。

マラウイでは複数政党制を採用しており、主要6政党と無所属の政治家によって選挙をしています。

各任期は弾劾やリコールが無い限り5年になります。
しかし今回、大統領選のみ1年後ろ倒しになった形になります。
これに伴い、国会議員、地方議会議員の任期は大統領の任期と合わせる為に1年延長されることになります。

マラウイの投票方法

マラウイの選挙権は18歳以上に与えられます。
マラウイでは、個人がマラウイ人であることや個人を識別するようなIDはありますが、「住所」に紐づくような戸籍というものがありません
なので、個々の投票を管理するために、投票権のあるマラウイ人は投票登録をしなければなりません。
投票日当日に投票を行う場所を決めて、その場所で投票することを登録する手続きになります。当然ながら、みんな自宅から近い投票所で投票するようですね。

投票所は結構細かく設置されています。マラウイ全国で5,000以上の投票所が設置されます。
例えば、人口100万人を超えるブランタイヤ地区だと190か所ほどの投票所があり、各投票所では数百人~10,000人ほどの投票が行われることになります。

再選挙までは紆余曲折がありましたが、どのようなことが国内で起きていたのでしょうか?

【2020年】アフリカ、マラウイの大統領再選挙前に起こった「連合形成」

マラウイのトンセ・アライアンス

2019年6月に総選挙が行われましたが、いくつかの不正行為があったとして裁判所より再選挙が言い渡されました。
2020年2月に判決が出されていますが、前回の選挙から判決の発表までは以下の記事を参考にしてください。

前回の選挙で出馬していたラザルス・チャクウェラ率いるMCPと、サウロス・チリマのUTFが中心となり、MCPのチャクウェラを候補者とする「Tonse Alliance」(トンセ・アライアンス)連合を組織することとなりました。
これが一番大きな出来事だったと思います。
正確にはMCPとUTM以外に7つの政党がトンセ・アライアンスに加わっています。
元大統領であるジョイス・バンダ(PP)も前回から引き続きMCPを支持していますので、大野党が組織されたことになります。

再選挙の候補者は結果的にほとんどの候補者が出馬を諦め、DPPの現職ピータ・ムタリカ、トンセ・アライアンスのラザルス・チャクウェラ、MMDのピーター・クワニの3名が候補者となります。

再選挙では、法律上選挙に勝つためには、過半数となる50%プラス1票が必要となります。
前回の投票結果の数字から見てもMCPとUTMとのこの連合形成はかなり大きな動きだったと思います。

前回の得票割合
DPP:38.57%
MCP:35.41%
UTM:20.24%

結果としてフランスの大統領選挙のように、一回目の選挙で得票数の少なかった候補者がいなくなり、事実上トップ2名の戦いになることになりました。

では、この連合形成以外に、再選挙の判決後から投票までに起こったことを見ていきたいと思います。

【2020年】アフリカ、マラウイの2020年大統領再選挙の投票日までに起こった事件

フレドキス
マラウイで人気のラッパー、フレドキス

落ち着くことないデモ

憲法裁判所での再選挙を指示する判決が出る前までの激しいデモは少なくなりましたが、大規模なデモは定期的に行われていました。
デモの目的はMEC(Malawi Election Commission:マラウイ選挙管理委員会)の委員長ジェーン・アンサ(Jane Ansah)の退任です。
原因の一つとしては、以前は軍が出動して鎮圧していたのが、政治的な理由によりムタリカ大統領がMDF(マラウイ国防軍)を使わなかったこともあると言われています。

最終的に投票日の1カ月前にジェーン・アンサは辞任することになります。

MEC委員長の交代

半年以上に及ぶMEC委員長の退任を求めるデモにも屈せず辞任しなかったジェーン・アンサが、世論に押される形で投票日の1カ月前に辞任しました。
代わってチフンド・カチェレ(Chifundo Kachele)が新しいMEC委員長になります。
特に目新しいことはないのですが、前回の選挙を通しての不信感の払しょくには一役買うことになります。投票の最終集計所として、前回はブランタイヤにあるコメサ・ホールで行われましたが、二度目については同じくブランタイヤにあるカレッジオブメディスン(マラウイ医科大学)にある体育館を集計所とし、前回との違いを見せる形にしたようです。

選挙準備を妨害して16名が逮捕

コタコタ地区で16名の元マラウイ国防軍軍人が投票準備を妨害したとして逮捕されました。
与党DPPの支持者だそうですが、DPP自体との繋がりはわかっていないようです。
前回の大統領選でもありましたが、出馬政党の支持者が起こす事件は選挙期間中には度々発生していました。

与党DPPの事務局長が襲撃される

与党DPPの事務局長がトンセ・アライアンス支持者に攻撃をされたと発表しました。
事実関係は不明で、事件詳細についても明かされていません。その後の報道も見つけることはできませんでしたので、真相はわかりません…。

人気ラッパー、フレドキスが逮捕される

マラウイでは有名なヒップホップ歌手のフレドキス(Fredokiss)が選挙法違反で逮捕されます。
フレドキスはDPP所属の国会議員の息子なのですが、選挙期間中にDPPを支持する内容のチラシを配ったとされています。

38件の暴力事件

投票日の後と選挙活動期間中に38件の暴力事件が摘発されていると警察の発表がありました。
マラウイでの選挙は国民の生活をかけた大イベントですので、暴力、脅迫、扇動など色々なことが発生します。

コロナウイルス上陸

マラウイでは4月にコロナウイルスの初感染者が報告されました。
感染者数の伸びはそれほど大きくなく、ゆるやかに増加していくような形でしたのでコロナウイルスへの危機感というようなものはなかなか生まれません
選挙活動についても以下のように、コロナウイルスはお構いなしに行われていました。

選挙活動を控える現職ムタリカ大統領

現職のピータームタリカは79歳で対抗馬となるラザルス・チャクウェラは65歳。
ムタリカ大統領は、自身が高齢なのを気にしてか、あまり積極的に選挙活動を行っていませんでした。
建前としては国民へのコロナウイルス対策としていましたが、実際は自身の感染を恐れていたのかもしれませんね。
一方、トンセ・アライアンスのチャクウェラ候補とチリマ候補は、北部と中部を中心に足場を固める活動をしっかり行っていました。

投票日まではこれぐらいでしょうか。
それでは、投票当日と開票期間には何が起きたのでしょうか?

【2020年】アフリカ、マラウイの2020年大統領再選挙の投票当日と開票期間に起こったこと

マラウイ投票日

出口調査ではDPPの現職ムタリカ大統領が有利との報道が投票日の午後にありました。
ただ、マラウイでの出口調査は精度が低いと言われています。
マラウイでの投票先は、所属する組織やコミュニティ、教会などで決まることがあり、誰に投票したのかを明かすことを避ける傾向にあります。
私の住む場所はDPPの支持者が多いエリアですが、外国人の私に話すのでさえ、私の同僚や知り合いは公に誰を支持しているかを話すことに慎重です。
人によっては物陰に隠れて教えてくれる人もいるほどです。
もし、自分の所属するコミュニティが支持する人と違う人に投票した場合、村八分のような状態に陥ったり、関係が悪くなることがあるようです。

選挙登録者数は6,859,570人でした。
マラウイの全人口は1,800万人ほどと言われており(国勢調査が信用できないので…)、人口の半分は18歳未満と言われています。
それを考えるとちょっと少ない登録者数だとは思いますが、マラウイには都市部・農村部ともにIDを失った(無くしたまま)のような人が多くいるそうなので、そのような方が選挙登録を行っていない(行えない)のだと推測されます。
あとは、若い人達は日本と同様にあまり選挙に関心がなく、登録を行わない人が一定数いるといいます。

最終的に当日投票された票数は4,445,699となり、選挙登録者数における投票率は64.8%でした。
選挙登録する割には低い感じがしますが、この数字だけ見ると日本とは大きく異なりますね。

結果は以下のようになりました

今回の選挙結果
Tonse Alliance(MCP):58.57%
DPP:39.92%

Malawi Election Committee ホームページより抜粋

ちなみに前回の選挙の結果は以下の通りです

前回の選挙結果
DPP:38.57%
MCP:35.41%
UTM:20.24%

得票割合と得票数からわかるように、DPPの支持基盤は大きくゆるいだわけではないようです(前回:38.57%、今回:39.92%)。
数字だけから見ると、候補者が絞られたことによってDPP不支持票がトンセ・アライアンスに流れたように見えます。
結果的に「ムタリカか否か」という意味合いの投票となったということになります。

あと、細かいところですが、無効票は前回より20,000票減っていることから、短期間での連続選挙で有権者が投票慣れしたという側面もありそうです。

結果を見ると、前回の投票から大きくは変化が無く、お互いの支持基盤はおおむねそのまま維持したというところでしょうか。
そのために連合を形成した野党側が単純な足し算で現職に勝ったように見えます。

しかしながら、多少の票がDPPから動いたことと、前回MCPやUTMには投票しなかった人がトンセ・アライアンスとなったMCPや第3候補となるMMDに票が流れた(前回より10,000票増)理由は何なのでしょうか?

【2020年】アフリカ、マラウイの大統領再選挙で現職が負けた理由

マラウイのピーター・ムタリカ
現職ピーター・ムタリカ

私の考える今回の現職が負けた理由と野党のトンセ・アライアンスが勝利した理由を挙げてみたいと思います。

一番は連合形成だったと思います。
結果の得票数を見ても、前回の得票数を単純に足し算して計算すると予想できる大勢のままの結果だったのではないかと思います。
また、再選挙の法的な勝利要件として、50%の得票数+1票が必要(過半数)ということも連合形成にいたる理由の一つだったのだと思います。

他の小さな要因としては、前回の総選挙以降、国内は激しくなるデモなどの影響もあり特に目立った政策の実施がなかったことではないでしょうか。
実際にはあったのかもしれませんが、国民にインパクトのある政策が行われなかった(結果がでなかった)というのが正確なのかもしれません。
実際に私の感覚的にも、2019年6月の選挙以降の一年間、これといって国として大きな進歩を感じることはありませんでした。

また、マラウイでも他のアフリカ諸国と同様に汚職にあふれており、憲法裁判所から「不正」があったとして再選挙を命令されたことや、選挙後に発覚したDPPに近い財界の大物の選挙買収事件などで、印象は少々悪かったのではないかと思います。
このような中、4月にはコロナがマラウイにやってきてロックダウンの政策が裁判所に差し止められて失敗終わり、経済活動の制限を決めるものの反対するデモ活動などが起こりました。

この一連の状況により、既存の支持基板はある程度保ったものの、それ以外の野党支持票がトンセ・アライアンスの野党連合に集まる形になり、現職の信任を問うことにフォーカスしたかのような形の選挙になりました。

マラウイの有権者は、現状の政治を変えることを望み、この結果を出したのだと思います。

次に、私の思う新政権に期待できることと問題点を書いてみたいと思います。

【2020年】アフリカ、マラウイの大統領再選挙から期待できることと問題点

チャクウェラ大統領と夫人
チャクウェラ大統領と夫人

新しい政権ですので、期待できそうなことは沢山ありそうです。
特に、長くマラウイで蔓延している汚職や縁故主義については批判が多く出ていますので、この問題の解決はかなり期待されているのではないかと思います。

汚職については、これまでマラウイ独立後の歴史の中で長く続いてきたことで、大統領が変わってもなくなることはありませんでした
そしてこの無くならない汚職は、他のアフリカ諸国でも同じことが起きています。
先進国の歴史や大きく発展してきた東南アジア諸国の例から見て、これは政治のトップが誰なのか、ということが問題なのではなく、政治システムや官僚構造の問題なのではないかと私は考えています。
より透明性を持たせたオープンな政治・行政を実行するシステムが必要なのであり、この改革に新大統領が着手しない限り、同じことが繰り返されるのではないかと思います。

また、縁故主義については、私の同僚が少々懸念を持っていました。
新大統領のラザルス・チャクウェラはペンテコスタルという教会のトップを務めており、当然ながらその教会派に大きな力を持っています。この宗教的な力が後に何かしらの問題となるのではないかと言っていました。

また、彼は中部にある首都リロングウェの出身で、妻は北部のルンピ出身ということで、これまでのムタリカ前大統領による南部優遇政策の反動としての中部・北部優遇政策が取られる可能性があります。
この振り子のような優遇政策の振れは、途上国ではよくある現象ですが、ここはバランスを取った政治を新大統領には行ってもらいたいと思っています。

この反動的な優遇政策が懸念される中、DPPはムタリカ大統領が失脚したことにより、党首をコンドワニ・ナンクムワに代える事を発表しました。
正直、ピーター・ムタリカという看板がなくなったことによって、DPPの存在感が弱くなったことが政治的なバランスのとりにくい、トンセ・アライアンスの強い政治になる要素を増やしているように感じます。

次の大統領選挙はどうなるのか、という予想もできない話を少ししたいと思います。

個人的には今回トンセ・アライアンスの一人として副大統領となったサウロス・チリマが次の大統領候補として有力なのではないかと思います。
彼はまだ47歳と若く、今回二度目の副大統領となります。UTMは結党して2年弱とこれからの政党で、若者からも人気もあります。
彼の政策がチャクウェラ大統領とどれほど近いのか正確にはわからないのですが、このあとトンセ・アライアンスとして副大統領を務め、ラザルス・チャクウェラの後継者として大統領になる可能性はあるのではないかと思っています。
少なくとも彼のこれまでのキャリアとしては、今そのレールにしっかり乗っていると思います。

まとめ

マラウイ、リロングウェの夜明け
リロングウェの夜明け

アフリカ初の再選挙での野党勝利となった今回のマラウイの大統領選再選挙。
野党連合と現職のインパクト不足により、概ね数字通り、予想通りの結果となった再選挙でした。

2019年に行われた一回目の総選挙から色々なことがあった1年でしたが、何とかこれで新大統領の下、新しいマラウイがスタートしそうです。
たぶん期待は大きいと思いますが、その分失敗した時のマラウイ国民の落胆も大きくなるはずです。
早速新大統領は10,000枚のマスクをリロングウェに配布することを最初のスピーチで公言しており、つかみを得ようとしています。

これから新大統領がそのような国作りを描いて実行していくのか、しっかり見て行かなければなりません。

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