アフリカ、マラウイでも他の途上国と同じように教育での問題を抱えています。
教育の問題についての原因は明確にわかっているものの、解決の難しい問題の一つとされています。
マラウイ政府をはじめ、多くのNGOが取り組んでいるマラウイの教育問題につて紹介します。
私のマラウイ生活で得た個人的な経験と独自の調査ベースでお伝えします。
マラウイの教育システムと、教員についてはこちらの記事を読んでみてください。
アフリカ、マラウイの教育問題とは?
アフリカ、マラウイの教育の抱える問題とは何なのでしょうか。
色々あって数えきれないのですが、代表的なものを挙げていきます。
まずは、マラウイの教育の状態について客観的な評価と数値を挙げてみたいと思います。
はじめに数値的に優秀な就学率です。
マラウイでは世界銀行の支援を受けて1994年に初等教育を無償化しました。
これにより就学率は大きく改善され、現在は98%ほどとほぼ100%を達成しています。
この就学率の数字だけ見ると素晴らしいように感じるのですが、実際はそれほど素晴らしいものではありませんでした。
当時の政府による初等教育無償化政策は、財政的な裏付けなしに政治的な理由で進めらました。
要するに金が無いのに人気取りのためにやった、という感じです。
これによって、財政の苦しいまま小学校の無償化がスタートしたために、教育への給与未払いや教員不足、学校不足、教育資材不足などを原因に、教育の質が著しく低下してしまいます。
この初等教育無償化は、世銀の貧困削減施策として支援されたのですが、結果として貧困削減には寄与しなかったという研究もあるほどです。
教育部門は国家予算の約2割(18%)を目安に組まれています。
マラウイでは教育に関わらず、財政はどのような分野でも厳しい状況で、国家予算の30%~40%が海外からの支援や借款で補われている中、教育予算についても40%ほどを海外からの資金に依存しています。
就学率から財政の話になってしまいましたが、話を戻します。
次は退学率と進学率です。
98%の子どもがプライマリースクール(小学校)の1年生になるわけですが、そのうちプライマリー(8年間)を卒業試験をパスするのは30%ほどです。
その30%のうち、半分より少し多いくらいの生徒がセカンダリースクールへ進学し、30%のうちの1/3程度ほどしか卒業試験を受かりません。
要するに100人の子どもがいると、98~99人の子どもが小学校に入学し、20人くらいがセカンダリーへ進学し、卒業するのは10人ほど。
日本で言う「高卒」は10%しかいないということですね。
そこから高等教育(大学、訓練校)へ進学するのは子ども全体の0.5%ほどと言われていますので、100人の子どものうち1人いくかいかないかくらいということになります。
マラウイで教育を受け続けることの難しさが数字に出ていますね。
農村部にいくと、「俺はセカンダリー卒業しているよ!」(ドヤァ)と言われることがたまにあります。
留年者もプライマリーから多く発生してます。
セカンダリースクールに通う年齢に達しているものの、依然プライマリーに通学している子どもは、男子の70%、女子の60%いることが調査でわかっています。
そもそも年齢が不明確という理由も中にはあるかもしれませんが、留年している生徒が多くいることがわかります。
私の自宅の近所に、プライマリーの7年生で18歳の少年がいたりもします。
ちなみにですが、(教育機会を与えるという理念はさておき)一般的に留年は学力向上には効き目が無いとされています。
留年者が発生することによって教室の混雑を招き、新たに教室を建てる・教科書を配布する・椅子や机を用意する、といった追加的なコストが必要になるので、留年は非効率であるとされています。
マラウイの教育状況は、学力という点でも悪い結果が出ています。
南部アフリカで実施されている国際学力調査「SACMEQ(The Southern and Eastern Africa Consortium for Monitoring Education Quality)」では、マラウイの学生の読解力は参加国中最下位、算数は下から2番目となっています。
しかも、子どもの世帯における経済状況と学力状態を比べると、学力格差が小さいことがわかっています。
要するに、高所得であっても低所得であっても学力が低いということです。
この状態は20年間変わっていないことから、少々乱暴な言い方をすれば、経済発展を正しくしていないとも言えます。
このような結果に至っている問題はどこから発生しているのでしょうか?
アフリカ、マラウイの教育問題には二つの側面
マラウイの教育が上手くいっていない原因は二つの側面があります。
当然と言えば当然なのですが、生徒(家庭)側と先生(政府)側です。
一つずつ挙げてみます。
アフリカ、マラウイの教育問題となる生徒(家庭)側の事情
マラウイでは初等教育が無償化されたことによって、授業料はかからなくなりました。
しかし、学校に通うにはそれなりに費用がかかる上に、得られるはずの収入が得られなくなることがあります。
まず費用です。
授業料はかかりませんが、教科書や文房具、制服は自分たちで用意しなければなりません。
ただ、教科書は必ず買わなければならないわけではないので、農村部の小学校だとほとんどの生徒が持っていません。
教科書が見たい時は、図書館で借りるか、持っている人に見せてもらうしかありません。
しかし、小学校には図書館があっても、数冊しか教科書がないのでいつでも好きなだけ借りることはできません。
制服は低学年だと着ていない子は結構います。
制服は色や大まかな形の規定があるだけなので、自作したり、譲ってもらったりすることが多いようです。
費用の次に問題となる経済的理由が労働です。
マラウイは出生率が4.21とかなり高く、各家庭に多くの子どもがいて、彼らは家計を支える重要な労働力となります。
子どものする労働は家事、畑仕事、物売りなど色々あるのですが、子どもが学校が行くことによってその労働機会が失われることになります。
これは貧しい家計になればなるほど、子どもの通学は深刻な問題です。
また、子どもが労働するというのは文化的な部分もあるので、この考え方を変えるのは大変なことです。
経済的な理由以外には、女子特有の問題で退学する生徒も多くいます。
他の途上国と同様にマラウイでの女子学生の問題はたくさんありますのでいくつか挙げていきます。
一つは早婚です。
これは文化的な問題が原因なのですが、年々減ってきているものの10代で結婚する少女は農村部を中心に多く報告されています。
特に現在のコロナ禍で増えていると報告されています。
早婚の理由にもつながるところですが、女子教育の必要性が理解されていないということもあります。
マラウイでは女性は結婚して家庭に入るという認識が一般的なため、女子が教育を受けることに必要性を感じていない人が農村部を中心に多いです。
短期的に見ると、農村部の実態を見ると彼らの選択は間違っていないとは言えます。
農村部での女性の仕事は、家事労働、畑仕事、販売など、特殊な技術や高度な知識を必要とするものはありません。
ですので、女子に教育に受けさせるのが難しくなると、途端に諦めるというのは理にかなっているとは言えます。
しかし、長期的に見ると、女子の教育レベルがあがると、国やコミュニティレベルでも所得が向上することが研究でわかっていますので、女子教育は促進して欲しいところです。
女子学生の退学理由には安全面の懸念もあります。
学校が少ないために、学校が自宅から遠いというケースがあります。
その場合、治安に不安のある地域だと、親が女子学生を通学させるのを嫌がることがあります。
農村部などだと、小さいコミュニティスクールのようなものもありますが、教育レベル・環境は良いものではありません。
また、場所によっては3学年までいかないような学校もあり、途中から転校しなければならないこともあります。
学校にトイレがないことも女子生徒の安全面に問題を与えています。
トイレが無ければ近くの茂みなどで用を足さなければなりません。
女の子にとっては酷ですし、性暴力の引き金になる可能性もあります。
また、生理が来た際に適切に処理をする場所がなく、トイレが無いと生理を理由に学校を休んだり、そのまま学校に来なくなる生徒もいます。
他に一般的な問題として、英語教育が足かせになっていることが言われています。
マラウイでは英語とチェワ語が公用語とされており、教育においては必須教科となっています。
プライマリー5年生から授業は英語で行うように教育省で決められています。
それによって多くの学生が授業の理解度が落ちていると言われています。
もちろん5年生になったらいきなり全部英語の授業になる、というわけではないのですが、先生は英語を使用して指導するように言われているので、英語が多くなってきます。
とはいえ、生徒が理解できないということもあって、プライマリー最高学年となる8年生でも、セカンダリーに入っても、学力の比較的低い学校ではチェワ語混じりで行っているところが多いです。
プライマリー時点から英語教育を行うというのは良いと思うのですが、指導体制や環境が整っていないというところです。
教育の質が低いことも子どもたちが教育を続けられない理由の一つとなっています。
先生のレベルが低いということですね。
ただ、これは先生たちが悪いということではないと思っています。
プライマリー1年生時点での教員と生徒の比率はは先生1人に対して生徒が130人となっています。
全学年で平均すると教員1人に対して70人ほどまで下がるようですが、それでも多いですね。
(生徒の半分は卒業できない為、平均すると下がる)
教員不足や待遇が良くないことから、先生のモチベーションや指導レベルが下がります。
教員が教室にいないことが多くなることによって、生徒の学習到達度が下がったり、やる気がなくなってしまします。
なぜ教員たちの指導レベルが低くなってしまうのでしょうか?
先生と政府側の事情を見てみます。
アフリカ、マラウイの教育問題となる先生(政府)側の事情
先ほど紹介した通り、マラウイは出生率が4.21ということで人口は急増し続けています。
子どもが増え続けているということですね。
これによって全国的に学校不足が長く問題とされてはいましたが、初等教育の無償化によって就学する子どもが増えたことによって深刻化します。
セカンダリースクールでも学校不足は問題となっていますが、特に深刻なのは小学校(プライマリースクール)です。
学校が少ないことによって一つの学校に通う生徒は増えます。
当然ながら教室が足りなくなって、外で授業を行うのは日常です。
教室が使用されたとしても、農村部では1クラスに100人~200人いる学校はよく見られます。
都市部や学校の多いエリアだと、1クラス100人というのはあまり見ませんが、50人以上は普通にいる印象ですね。
机や椅子が無い学校もたくさんあります。
これも特に農村部では顕著で、教室はあっても机や椅子がない学校はよく見ます。
マラウイ政府は教育に年間予算の2割ほどを割り当てていますが、そもそも予算の少ないマラウイでは、学校建設にかけられる費用は限られています。
また、この教育予算の半分は人件費に充てられており、教員への給与に充てられる予算も限られています。
教員の給与も良いものではありませんし、特に小学校の教員は公務員の中でも低賃金です。
志の強い教員(特に教員養成校を卒業したばかりの若者など)は頑張って指導をするのですが、低賃金のためにやる気の無い教員は目にすることがあります。
他の要因として、これは大きな要因というわけではありませんが、マラウイでは障がい児を専門に受け入れる養護学校が少ないというのも先生や学校側の負担になっていることは挙げられます。
障がいを持っている子どもが健常の子どもたちと一緒に授業を受けると、先生にかかる負担は大きくなります。
先生の給与事情などを知りたい場合は、こちらの記事を読んでみてください。
このように多くの問題とその原因とされるものが挙げられるのですが、マラウイは政府をはじめ多くのNGOがその改善に努力しています。
しかし、これらの原因の根本的な解決に取り組むNGOは少なく、その対処しか行えていないというのが現実です。
マラウイで行われている教育に対しての施策や支援にはどのようなものがあり、根本原因とは何なのでしょうか?
アフリカ、マラウイの教育問題への取り組みと根本原因
良くも悪くも(長期的な結果としては良かったとは思います)初等教育が無償化されたことによって、就学率の問題はクリアされました。
その次には退学率の低下ですが、 この点には色々な施策が行われています。
マラウイの小学校では、多くの学校で朝ごはん(メイズのポリッジ)が提供されています。
たぶんこのポリッジの提供のほとんどは海外のNGOや国際機関の支援によるものです。
よく見るのはMary’s MealsやWFPですね。
学校で朝ごはんが出ることによって家庭は子どもたちを学校へ送りやすくなった(食費が浮く)ので、退学率が下がっています。
この施策は世界の途上国で取り入れられており、退学率の低下に効果があることは研究でわかっています。
次に学校ですが、政府は毎年学校を増やしてきています。
海外NGOなどによる学校建築が一時期ブームとなっていましたが、これはマラウイ政府によっても着実に行われています(政府も海外から支援を受けてますけどね)。
学校を増やせば当然ながら先生も必要になりますので、先生のリクルートも力を入れています。
ただ、教育予算の半分を占める人件費が増えるのはかなりきついので、雇用すると宣言するものの給与が払えなかったり、雇用目標人数を達していなかったり、現実は厳しいです。
マラウイ政府は、農村部と都市部の教育格差にも注目しています。
農村部の教育に力を入れる施策は数年来行われてきていて、正確な金額やエリアを把握していないのですが、農村部で指導する先生には手当が出るということです。
当然ながら農村部で指導したいという先生は比較的少なく、特に女性教員には人気がないそうです。
結婚相手はシティボーイが人気なようで、そのために農村部への転勤を嫌うと言われています。
この問題の解消のために、農村部での指導に出る手当を、女性については高めに設定する議論も行われています。
また、新卒先生は2年間農村部での勤務をおこなわなければならないというルールもあります。
これは日本にも同じような勤務形態がありますね。
生徒(家庭)側の原因も先生(政府)側の原因も、どちらも帰結するところは経済的な理由です。
- 生活が苦しいので学校へ行かせられない
- 学校の学習環境が整っていないので学校を退学しやすい
- 給与が低いので先生の待遇が悪くて人数が足りない
- 先生のやる気がないので子どももやる気が出ない
- 予算が無いので環境を整えるのが遅れている
- 子どもが増えるので学校が必要
出生率は国が経済発展すると低下することがわかっていますので、経済発展が健全に行われれば、税収は増え、教員の給与は増え、子どもは適正な数まで少なくなり、しっかりとした教育を受けることができるようになるはずです。
私の感覚ですが、マラウイは貧しい小国ではありますが、それなりの経済規模を国内と近隣諸国との間に持っています。
適切にこの経済を農村部にまで波及させれば、教育部門を中心に多くの問題が解決できると思っています。
しかしながら、海外NGOは問題の対処法となる施策を行うことはあっても、経済について支援をするところは限られています。
まとめ
マラウイの教育においての問題の数々を挙げてみましたが、悲観的なことは全くありません。
年々改善はしていますので大丈夫です。
ただ、そのスピードは遅く、根本解決を目指す支援者は少ないのは残念なところです。
マラウイに関わらず、よく途上国に学校を建設するNGOを目にしますが、学校建設には非常に多くの労力が求められます。
教育は学校のことだけでなくコミュニティや各家庭に直結した問題ですので、安易に外国人が建設するものではないと考えています。
これについては別記事で学校建設の難しさについて書きたいと思っています。
教育は国の根幹です。
教育が重要なのは誰もがわかっていることですが、予算や文化の面からなかなか改善されないのが現実です。
また、あるべき教育は、それぞれの国の国民が決めることであって、外国人が決めることではありません。
マラウイ国民が求める教育の姿になるのは、まだまだ時間がかかりそうです。
コメント