2020年2月3日にアフリカのマラウイで2019年に行われた選挙について、憲法裁判所が再選挙を行う命令を下しました。
マラウイの選挙制度や2019年の選挙はどのようなものだったのでしょうか?
そして再選挙の展望について書いてみようと思います。
時事ドットコムニュース | 大統領選やり直し命令 マラウイ憲法裁
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020020400212&g=int
私は今現在(2020年2月)マラウイの都市部に住んでいますので、私の生活ベースで経験した事をお伝えしたいと思います。なので、農村部や他の地域とは生活の様子が異なったり、私の主観を通した意見となる事もありますので、それを踏まえて読んで頂けると嬉しいです。
マラウイでは地域によって支持政党が大きく異なりますからね。
参考:BBC | Malawi election: Court orders new vote after May 2019 result annulled
https://www.bbc.com/news/world-africa-51324241
アフリカ、マラウイの選挙制度
大統領
マラウイの国家元首(政治のトップ)はアメリカやフランスと同じ「大統領」となります。
投票方法はとてもわかりやすく、全有権者が大統領候補者の中から一人選び、最も多く得票した候補者が大統領となります。
国会議員
大統領と共に日本の「国会」にあたる議会として、「National Assembly」があります。
こちらの議員は小選挙区制にて全国から194名が選出されます。
地方議会議員
各地方行政区(Distric)で選出され、定数は区によって異なります。
弾劾やリコールが無い限り各任期は5年になります。
マラウイでは複数政党制を採用しており、主要6政党と無所属の政治家によって選挙をしています。
2019年のマラウイ大統領選挙と投票率
2019年5月21日に大統領・国会議員・地方議会議員を決める総選挙が行われました。
大統領候補として有力視されていたのは以下の3人でした。
私の各支持者のイメージも添えて。
ピーター・ムタリカ(現職大統領)【Peter Mutharika】
2014年から大統領の職に就いており、与党であるDPP(Democratic Progressive Party | 民主進歩党)の党首。南部に支持基盤を置き、保守的な人や、当然ながら既得権益側からの支持が強いイメージ。
ラザルス・チャクウェラ【Lazarus Chakwera】
最大野党となるMCP(Malawi Congress Party | マラウイ会議党)の党首。中部に支持基盤を置き、DPPの前の政権与党だったので、以前からのMCP支持者や、DPPへの不満から政治を回帰させたい支持者が多いイメージ。
サウロス・チリマ(現職副大統領)【Saulos Chilima】
DPPから離党して新党となるUTM(United Transformation Movement | 統一変革運動)を結党。特定地域の支持基盤は無いものの、若者を中心に大きな変化を求める支持者が多いイメージ。
選挙結果としては、与党DPPのムタリカ大統領が38.57%を得票し再選となる結果が出ました。大統領選には計7人が出馬し、有力対抗馬だったMCPのチャクウェラ党首は35.41%、UTMチリマ副大統領は20.24%となりました。
有権者数は約686万人で投票率は約74%となり、日本では考えられないほど高い投票率でした。
総選挙はマラウイに住む人々の生活を大きく変える可能性のあるものになるので、マラウイ人の同僚達は投票日が近づくにつれて、毎日のように選挙について議論していましたね。
マラウイの総選挙前後に起こった事
選挙前
選挙前には各政党支持者による政治集会やデモが全国で数多く行われていました。
時には異なる政党支持者と衝突し、警察が出動するという事もありましたが、まだ平和な範囲での政治運動だったのではないかと思います。
私の職場にも国会や地方議会の議員候補が直接演説に来る事があり、賄賂を配る候補者もいたようです。同僚に「これって犯罪だよね?」と聞いたら、「いつもの事だよ」と軽く返されました…。
投票日
投票日と投票後数日は私の職場もお休みとなり、選挙結果が発表されるまでは毎日みんなラジオやテレビを見ていたような気がします。
選挙にはEUの選挙監視団が参加していたり、投票用紙を海外で印刷して輸送したりとかなりしっかりやっている部分はありました。
マラウイ大使館からも投票日など外出を控える旨のメールが出ていたと思いますが、街はとても静かで、かなり平和な雰囲気のなか選挙は行われていたと思います。
選挙結果発表後のマラウイ
開票に1週間ほどかかりました。
ムタリカ大統領の勝利が発表されたものの、選挙の結果の正当性について、野党のチャクウェラ党首とチリマ党首の訴えから憲法裁判所での審議となり、その結果を待つ事になります。
この選挙結果発表後あたりから、マラウイ国内が荒れはじめたのではないかと思います。
選挙開票中からニュースにはなっていたのですが、投票集計用紙に修正液が使われていたり、投票を輸送するトラックが怪しいルートを走っていたり、嘘か本当かわからないニュースが出回っていました。
そんな中、HRDC(Human Rights Defenders Coalition | 人権擁護連盟)という市民団体を中心に、MEC(Malawi Electoral Commission | マラウイ選挙委員会)委員長の退任を求めるデモ活動が盛んに行われるようになりました。
デモは次第に激しくなっていき、店舗の略奪や暴力事件が増え、警察が催涙弾で鎮圧するのが当たりまえのようになっていました。
一連のデモ活動で1人の警察官と1人の市民が死亡しています。
激しくなるデモについて、ムタリカ大統領や商業関係者は反発しており溝が深くなっているように見えました。
マラウイで激化するデモの与える影響
激しくなるデモの影響は思わぬところにも出ていました。
マラウイ国内の学生がこれらのデモに感化され(たのだと思っています)、学校や教育省に対してデモを行い、デモだけではなく投石や放火などの破壊活動も頻発しました。国内で6, 7校は一時的に閉鎖されたと思います。
悪い影響が生徒に出てしまっているのではないでしょうか。
マラウイ憲法裁判所の判決
3カ月以上に及ぶ審議の後、マラウイ憲法裁判所は2020年2月3日、政権による不正を訴えていた野党側の主張を認め、150日以内に大統領選をやり直すよう命じました。
主に不正とされた点は以下の通りです。
・修正液を投票集計用紙に使用した
・投票管理員が誤った投票結果の用紙を結果収集所へ送っていた
・投票結果の計算間違いがわずかだが発見された
これらはいづれも多くの得票に関わるケースではなかったようです。
マラウイの選挙管理委員会であるMEC(The Malawi Electoral Commission)は法を遵守したと自身の投票管理を養護してはいます。また、修正液の利用は確認してはいるものの、手続き上の誤記載の文面を修正するのに使用したとのことで、結果となる得票数に対する修正ではない事を付け加えていました。
審議結果発表の日は朝の6時から首都にある最高裁判所近隣の道路は封鎖され、治安維持に軍隊が派遣されるなど物々しい雰囲気でした。
朝から夕方まで10時間以上、ラジオやニュースで判決内容が読み上げられ、判決文は500ページに及んだとの事。
最終的に150日以内に再選挙を行う、ということになりました。
マラウイ大統領選挙の判決に対する同僚マラウイ人の反応
私の周りのマラウイ人の雰囲気としては、野党支持者はもちろん大喜びで、それを冷ややかに見るDPP支持者、という感じでしょうか。
マラウイ人の私の同僚(MCP者支持)は、「こうなると思ってた。次は必ず勝つ!」と息巻いていました。
その同僚の話によると、「政権がMCPからDPPに代わってから、もちろん以前から汚職はあったけれども、その額や件数がかなり増えた」と言っていました。
また、Tribalism(種族主義)もひどくなっていると言っていました。「ムタリカはロームウェ(Lomwe)という種族出身で、政府や官公庁などの要職にはロームウェが多く就いていて優遇されている」と言っています。
ロームウェは元々マラウイでは多数派の種族ですので、なんとも言えないところですが、これらを理由にその同僚はMCPを指示しているそうです。
マラウイ大統領選挙再選挙の展望
私の知る情報と感覚的には、再選挙でムタリカが選ばれる可能性は低いのではないかと思っています。
2019年5月のムタリカ勝利の発表から9カ月間、結果として新ムタリカ政権の「お試し期間」となりました。
2018年の終わりころから、ムタリカ政権はいわゆる「バラマキ」政策を行っており、計画停電が無くなったり、公務員が全員昇給したり、突然大統領夫人が寄付活動をしたり、色々とやっていました。
しかし、選挙後になるとそれはパタッと止まり、計画停電が始まったり、教員の給与が払われなくなったりと憤りを感じるマラウイ人も多かったのではないかと思います。
残念ながらこの9カ月で、デモの影響もあり、マラウイの民衆は大きな進歩を感じられていないのではないかと思います。
また、選挙無効判決の発表される直前に、マラウイの大銀行グループの一つである「FDH Finacial Group」のCEOが、$130,000以上のお金で裁判官を買収してDPPに有利な判決を出させようとして逮捕されています。ちなみに彼はマラウイの電力会社、ESCOM取締役員の一人でもあります。
ESCOMについてはこちらを読んでみてください。
この汚職ニュースもかなり印象が悪かったのではないかと思います。
このような事から、次の選挙ではMCPのチャクウェラ氏に大きなスキャンダルが無い限り、ムタリカ氏の勝利する可能性は前回より下がったのではないかと私は思っています。
まとめ
5カ月間の憲法裁判所での審議の後、150日以内での再選挙を行う命令が下されました。
当初私はかなり楽観しており、上記のように不正はごく部分的だったために、途上国なので強引に選挙結果を有効とするのではないか思っていました。
しかし結果は再選挙となり、民主主義において公明であることは重要な要素ですので、憲法裁判所の決定は至極真当な判決だったと思います。
これから選挙に向けて国内がまた荒れるのではないかという不安を持ちつつ、再選挙がどのよな展開となるのか楽しみでもあります。
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