【国際協力の知識】貧困ラインの「1.9ドル」以下ってなに?

1.9ドルの貧困ライン 国際協力
1.9ドルの貧困ライン
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貧困の度合いでよく言われる「1.9ドル」とは何なのでしょうか?
「1.9ドル以下で生活している人が世界に~人いる」というフレーズを国際協力の世界ではよく目にしますが、途上国について考える時に、間違ってもその「1.9ドル」を現地通貨に換算して計算しないでください。
国際協力の分野でよく利用される「1日1.9ドル以下の生活」の「1.9ドル」について紹介します。

マラウイで国際協力の活動をしている私が感じている、この「1.9ドル」の問題についても書いています。

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【国際協力の知識】貧困ラインの「1.9ドル」以下とはなに?

貧困イメージ
※イメージ

「1.9ドル」以下というのは、世界銀行(World Bank)が決めている絶対的貧困を定義するラインです。
1日に1.9ドル以下で生活している人を極度の貧困である「絶対的貧困」であるとしています。

世界銀行(通称「世銀」)というのは、途上国などに融資を行っている国際機関で、主に貧困問題に注視して運営が行われています。
似たような国際機関に国際通貨基金(IMF)というのがありますが、ここと世銀は設立経緯の違いがあったり援助のコンセプトが少々異なるので、似ているようでよく見ていくと違いがあります(遠くから見ると同じですけどね)。
世界銀行と国際通貨基金については、いずれ別記事で書きます。

2015年時点で全世界の人口の9%が「1.9ドル」以下で暮らしているとされています。
今全世界の人口が77臆人以上なので、7億人以上が「1.9ドル」以下で生活しているということですね。
世界銀行は、この「1.9ドル」以下で暮らす人々を2030年までに3%まで減らすとしています。
頑張って頂きたいです。

「1.9ドル」は「国際比較プログラム(ICP)」の算出する「購買力平価(Purchasing Power Parity :PPP)」を基準に決められています。
購買力平価(PPP)とは、アメリカでの「1ドル」で買える物を基準にして、その国でどのようなものが買えるのか?というのを測り比較する目安になる数字です。

例えば、アメリカで1ドルで水のペットボトルが1本買えるとすると、日本でも経済力は大きくは変わらないなので、同じく1ドル(約103円<2020年12月レート>)で水のペットボトルが買えます。
もしこれがマラウイだと、水のペットボトルはMK300~400ほどなので、ドル換算で0.4~0.5ドルくらいです(1米ドル=MK761)。

マラウイの2019年の国際ドル通貨あたりの現地通貨単位[LCU per international dollars]で278.2となっているので、ある程度妥当な計算だと思います。(この辺は話が難しいかもしれないので、何となく読んでおいてください)

この購買力平価での「1.9ドル」を使って、各国の絶対的貧困とされる生活費のラインを決定し、その中から最貧国とされている15カ国の絶対的貧困となるラインの金額で「平均」を算出したら「1.9ドル」となります。
世界銀行はその「1.9ドル」を世界的な貧困ラインとして定めた、ということです。

ちなみにこの貧困ラインの金額は、世界の物価上昇を考慮して変更されてきています。
1990年の算出開始時は「1ドル」でしたが、その後2005年に「1.25ドル」へ改定され、2015年に現在の「1.9ドル」になっています。
なので、センセーショナルに広報された1990年の「1ドル」が記憶に強く残っている方、特に中高年の方は多いかもしれないですね。

この世銀の言う「1.9ドル以下」にも、貧困を測る指標はたくさんあります。
貧困というのは国や地域によってとても複雑で、現地の社会システムや自然環境、文化など色々な要因が絡んでくるので一般的に差し示すことが難しいものです。
貧困は正確に捉えることが難しい状態でもあることから、研究者は色々な指標を使って定量的に測ろうと努力しているのだと思います。

では、この「1.9ドル」という表現にはいくつか問題点がありますので、それを紹介します。

【国際協力の知識】貧困ラインの「1.9ドル」以下の問題点とは?

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※イメージ

この「1.9ドル」にはいくつか問題点があると思っています。
それをいくつか挙げてみたいと思います。

※この話の前提となる「購買力平価(PPP)」を使用することが正しいのか否か、についても議論があるところだとは思います。
しかし、私はそこの議論について見識が深くないので、そこについての議論は他の方へ譲りたいと思います。

「1.9ドル」を現地通貨に換算してしまう

「1.9ドル」を現地通貨で単純に換算してしまっている人を、国際協力の現場でもたまに目にします。
先ほどお知らせしたように、あくまでアメリカで1ドルで購入できるものが他の国では何ドルで購入できるか、というのを比較するための指標なので、そのまま現地通貨に換算してしまうとちょっと計算がおかしくなってきます(同じレベルの経済の国同士ならほぼ問題ないです)。

マラウイを例にします。

1日「1.9ドル」をマラウイクワチャに換算すると、1米ドルがMK761として計算すると1日MK1,445.9となります。
これを月収計算すると、MK1,445.9×30日でMK43,377となります。

マラウイの最低賃金月額はMK35,000なので、MK43,377はそれなりの生活ができる収入となります。
正直、私のような外国人でも一日MK1,445で生活することは、やろうと思えばやれます(もちろん生活費全て込みで)。

前述のようにマラウイだと、アメリカでの1ドルは購買力平価で0.4~0.5ドルくらいのはずなので、マラウイクワチャでMK300~400ほどです。
1.9ドルだとMK570~760なので、もしマラウイで生活したことのある人なら、「貧困ライン」としてある程度納得の金額なのではないでしょうか。

単純に金額だけを見て一日MK570~760、一カ月でMK17,100~22,800の生活費だと、結構厳しい生活になるようには感じます。

「1.9ドル」では捉えられない経済システムの複雑さ

先進国では市場経済は均一化されていて、国内で何かを買う場合、購入場所によってそれほど価格に差は無いと思います。
例えば、野菜を買おうとすると、全国どこで買ってもブランド品でなければ何倍も変わるということはないはずです。

しかし、途上国ではいくつかの市場経済が存在しています。
ローカルのマーケットで買う野菜と都市部のスーパーで買う野菜は、ほぼ同じような品質でブランド物でなくても何倍も違ったりします。
マラウイの農村部の低所得家庭での一食の食費がMK200ほどなら、都市部の中所得者の一食の食費はMK500ほどで倍以上違います。

経済圏が地理や所得を基にして市場が分かれていることがザラにあります。
途上国の国内とは言え、一概にMK760が貧困ラインだと決めたとしても、都市部の貧困と農村部の貧困ではMK760の重みは全く異なります

「1.9ドル」はあくまで平均

購買力平価を基とした「1.9ドル」の意味を正しく理解していたとしても、これはあくまで平均になります。
前述したように、各国様々な経済的背景があり、この購買力平価を基にした貧困ラインも国によって違います。
それを最貧国15カ国の貧困ラインとする購買力平価を平均しているので、ここでも多少感覚の誤差が出てきています。

最貧国の中でも、購買力平価であらわされる物価が実態経済を正確に表現できているか怪しいものがあります。
原因としてはやはり経済システムの複雑さが挙げられるわけですが、「途上国」とされていても、購買力平価の貧困ラインが2倍近く異なる国もあるので、なかなか平均を出して一口に「1.9ドル」と言ってしまうのはちょっと強引な部分もあります。


いずれの問題にしても、「貧困」を測る難しさなのだと思います。

まとめ

貧困イメージ
※イメージ

よく国際協力の世界で使われる「1.9ドル」というのは、世界銀行が購買力平価を基にしてた設定した絶対的貧困ラインとしているものです。
あくまで各国の物価から算出される購買力平価による数字で、比較に使われるものです。
単純に「1.9ドル」を現地通貨レートで換算しないようにしてください。

世界銀行や国際協力団体が「1.9ドル」という数字を出せば、それはセンセーショナルに取り上げられますし、わかり易く「たった1.9ドル!?」感が出せます(マラウイの実際の貧困ラインは1.9ドルもありませんが)。
国際協力団体のよく使う「途上国の女の子の写真」と同じように、インパクトのある広報素材になりますからね。

途上国では、先進国以上に多様な市場経済が存在しており、一様に貧困の状況を測るのが難しい社会システムを持っています。
「1.9ドル以下」の指標はあくまで一つの目安ですので、言ってしまえば「雰囲気」だけで捉える感じで良いと思います。

そして、あまり数字に囚われると、大切な要素を見落とすことがあります。
人の生活は金額や数字だけで全てが表されることはなく、一要素にすぎません。
途上国に関わらず、お金があれば幸せかどうかはまた別問題ですよね。

世銀の決めた貧困ライン「1.9ドル」を正しく理解して、世界の貧困問題を考えてみてください。

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