世界のHIV感染者の総数は約3,500万人以上いると言われており、その大部分の感染者がアフリカにいます。中でも、私の現在住んでいるマラウイを含む、サハラ以南の南部アフリカの国々で多くの感染者が確認されています。
そのHIVとHIV感染から引き起こされるAIDS(エイズ)について書いてみようと思います。
今現在(2020年2月)マラウイの都市部に住んでいますので、私の生活ベースで得た情報をお伝えしたいと思います。
私は医療の専門家ではありませんが、自身で勉強したことや目にした情報を基にまとめています。もし古い情報や誤った内容があればご連絡を頂けるとありがたいです。
都市部には多くの孤児院があり、私はそこで月に数回仕事をしていまますので、そこで聞いた話などもお伝えします。
参考サイト:
hunger free world | アフリカ・アジアで深刻な社会問題 HIV/エイズの現在
MSDマニュアル | ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症
API-Net エイズ予防情報ネット
HIVとは?AIDS(エイズ)とは?
HIV、AIDS(エイズ)とはそもそも何なのでしょうか?
どちらも病気の名前だと思っている方がいるかもしれませんが、ちょっと違います。
- HIVはウイルスの名称
- AIDS(エイズ)は病気による症状の総称
HIV(Human Immuno-Deficiency Virus)
ヒト免疫不全ウイルス
人間に感染し、特定の白血球を破壊し人間の持っている抵抗力を働かなくしてしまうウイルスです。抵抗力が働かなくなると、通常元気であれば人間の持つ免疫力で回復できるような弱いウイルスに感染しても自身の力で回復できなくなり、治療しなければほぼ全ての感染者が最終的にAIDS(エイズ)を引き起こします。
AID (Acquired Immune Deficiency Syndrome)
後天性免疫不全症候群
生まれた時から持っているような遺伝によるものではなく、HIVに感染することによって病原体への抵抗力が機能しなくなり、それにより結核や肺炎などのさまざまな症状の総称です。
エイズが「発症した」という定義は、上記のような重篤な感染症やがんの発生により行われるそうです。
どのような形でHIVは感染していくのでしょうか。
HIVに感染する経路とは?
HIVは主に以下の経路によって感染するとされています。
- 性交渉
- 注射器のうち回し
- 母子感染
性交渉
これが一番多い感染原因とされています。
感染者との性的接触によるもので、性交渉と口、腟、陰茎、直腸の粘膜にHIVを含んだ精液や腟分泌液などの体液が付着する場合にも感染する可能性があります。
注射器の打ち回し
HIV感染者に使用された注射針の使い回しや、医療従事者がHIVで汚染された注射針を誤って刺してしまうというような事故などで感染します。
母子感染
感染した母親から子への感染も多くあります。出産前や分娩中、または出産後に母乳を通じて感染する可能性があります。「垂直感染」とも言われます。
他にはHIVを含む血液を輸血したり、滅菌が不十分な医療器具を使用したり、感染した臓器の移植などをした場合の感染もあります。日本では薬害エイズの問題が過去にありましたが、アフリカではこれが原因で感染する例は少ないようです。
このように基本的に普通の生活の中で感染する可能性は低いウイルスになります。なので、感染者の手を握ったり、体に触れたり、同じものを共有使用したとしてもHIV感染する事はまれです。仮にキスをしたとしても感染確率は全く高くありません。
それでも不運にもHIVに感染してしまった場合には、どのような症状が現れるのでしょうか?
HIVに感染後の症状
初めて感染した時には、発熱、発疹、リンパ節の腫れ、疲労といった症状が数日から数週間続くことがあります。
中には感染して10年以上経ってもエイズの症状が出ない人もいるそうです。感染確認後に治療をしなかった場合、半数ほどが約10年以内に体調を崩しエイズを発症します。
HIV感染者で最もよく見られる疾患が結核との事です。結核にかかっている事が発見されていなかったり、治療がされないままでいると致命傷になるそうです。HIV感染に関わる死亡者の3人に1人が結核が主な理由となっています。
なので、結核を早い段階で発見し、結核の治療とHIVに対する薬となる抗レトロウイルス薬の治療を組み合わせることで死亡を防ぐことができるとされています。
HIV治療薬に使用される抗レトロウイルス薬ですが、色々と問題を抱えています。その問題について書いてみようと思います。
抗レトロウイルス薬の引き起こした問題
基本的に安くて効果のある医薬品というのは、ジェネリックを除くと世の中にそれほど存在していません。一つの薬を作るには研究、開発をして臨床実験を経て市場に出されます。製薬会社としてはその工程にかかった費用+利益を生み出さなければなりません。
抗レトロウイルス薬も例にもれず高価な薬で、通常の価格では到底途上国の人達が毎日服用できるような値段ではありませんでした。
当初は製薬会社は利益を上げる為に薬の特許を守ろうとしましたし、ジェネリック薬の製造についても許していませんでした。しかし、2000年代に入ってから国際的な取り決めにより、ジェネリック薬を早く市販できるようになったり、他国のジェネリック薬を輸入できるようになったり、途上国側が特許権のある技術を自国で利用できるようになりました。
このような流れにより、途上国での抗レトロウイルス薬利用のハードルが大きく下がりましたが、特許権などの問題により、先進国側の製薬会社による新薬開発の鈍化が懸念されています。
それでは、そもそものHIVの感染を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。
HIV感染を防ぐ方法
HIVに感染する経路としては以下のようなものがありました。
- 性交渉
- 注射器の打ち回し
- 母子感染
なので、これらの原因を止めれば感染が広がる事が防げるはずです。
性交渉時の感染を防ぐ
最も一般的な方法が、性交渉時のコンドームの装着になります。
しかしながら、宗教上コンドームのが難しいケースも多くあるようです。
例としてイスラム教では不倫、同性愛、婚外交渉を認めませんので、それを助長する可能性のあるコンドームの使用に積極的ではないそうです(全てのイスラム教徒にあたる事ではないと認識しています)。
また、キリスト教では、聖書の内容に避妊行為を否定していると解釈できる内容がありますので(オナンの話の部分だと思います)、教会によっては避妊行為を許さない場合があります。
現実には複数の性交渉パートナーを持っている場合、コンドーム使用を行わずにHIV蔓延を防ぐことは不可能です。これらの宗教上の理由から、HIV感染やエイズ発症が背徳者の証であるという考え方を定着させ、HIVやエイズ差別を助長することにもつながります。
注射器の打ち回しを防ぐ
注射器の打ち回しについては医療現場での注射器の正しい処理方法の習得や、その他医療感染についての理解を深める必要があります。
しかしながら、医療の現場だけでなく、タトゥーを入れる際の器具や覚せい剤なのど薬物使用時の針の使い回しでの感染もあります。針を使い回すリスクについての啓発が必要となります。
医療での感染として、輸血による感染の可能性もあります。マラウイではHIV感染リスクの低い学生などから自発的な献血を募っていたりします。もちろん献血後は血液のHIV検査が行われます。
母子感染の予防
母親から子供へのHIV感染を予防するには、以下の方法があります。
- 妊婦がHIV検査を行う
- 妊婦の感染が確認された場合、妊娠中と分娩時に抗レトロウイルス薬を服用する
- 帝王切で出産を行う
- 出産後、新生児に抗HIV薬(ジドブジン)を6週間投与する
- (可能なら)母乳ではなく人工乳を使用する
母乳から子供へ感染する可能性もあるので、人工乳の使用が挙げられています。
このような処置が行われなかった場合のHIVの母子感染率は15%~45%とされています。母子共に感染が起こり得る全期間で抗レトロウイルス薬を投与すれば、母子感染をほぼ防ぐことができるそうです。
上記以外の感染防止
HIVの感染を防ぐために非感染者が抗レトロウイルス薬を日常的に使用することでも可能だそうです。
その他には、男性器の包皮環状切除を行った場合、男性におけるHIVの異性間感染確率を約60%低下させる事ができるそうです。HIVの感染者が多く、男性の包皮環状切除の実施率が低いような感染が流行している状況では有効なのだそうです。
世界の95%のHIV感染が発展途上国で起きており、新たなHIV感染の約70%はサハラ以南のアフリカ諸国で発生しています。そして、その半数以上が女性で、10人に1人は15歳未満の小児とのです。
マラウイにはエイズによって両親、または母親を失って孤児となる、いわゆる「エイズ孤児」がたくさんいます。
エイズ孤児とは?
エイズ孤児とは、両親または片親をエイズで亡くした18歳未満の子どものことを指します。UNAIDS(国連合同エイズ計画)の2018年7月発表の推計によると、世界に1,220万人のエイズ孤児がいると言われています。
エイズ孤児は親だけでなく孤児自身もHIVに母子感染しているケースも多くあり、それが原因で親戚が保護者になる事を拒否したり、里親が見つからないという問題も起きています。
私が仕事で訪れているマラウイの2つの孤児院では、約半数がエイズによって親、又は保護者を失った子供達です。
実際にアフリカ、マラウイでのHIVとエイズの状況はどのようになっているのでしょうか?
アフリカ、マラウイでのHIV・AIDSの状況
マラウイでは国全体での成人のHIV罹患率が約10%となっており、いまだ世界で高い水準となっています。そのうちの1/4ほどが出産可能な女性です。毎年28,000人がHIVに感染しているとみられ、2018~2020年には64,000人がエイズで死亡すると予測されています。
HIVに感染すると、偏見や差別などで社会的に厳しい状況に置かれる事が多いようです。
「HIVは同性愛者が感染するもの」という誤った認識もあるため、差別を受けたくないので検査をしないという人もいます。ちなみにマラウイでは同性愛は法律で禁止されています。
マラウイでは7割以上がキリスト教徒になります。性交渉での感染に有効なコンドームの使用については、↑にも記載した通り、コンドームを利用しているのは浮気をしているから(その人と子供を持ちたくないから)と考える人がいたり、避妊を良く思わない人もいるため、コンドームを使用しないという人もいます。
貧困によるHIV感染も多くあります。
貧困状態にある女性が収入を得る為に売春行為を行い、HIVに感染する例も多いそうです。娼婦のHIV感染率は一般女性と比べて15%以上高くなる事が報告されています。
マラウイではHIV感染者の治療は国の政策により無料となっています。抗レトロウイルス薬は今は安価になっているとはいえ毎日服用するものになりますので、実際に払うとなるとマラウイでは巨額の治療費となります。
国が費用をもつで、感染者の経済的負担は大きく軽減されていますが、「無料」という事を理由に「HIVに感染しても無料の薬を飲めば大丈夫」というような安易な意見を持つマラウイ人がいる事も事実です。
一方、日本でのHIV感染の状況はどのようになっているのでしょうか?
日本でのHIVとAIDS(エイズ)
日本でのここ数年間のHIV感染者数は毎年1,000名前後で推移していますので、累積の感染者数は毎年増加していっています。
感染経路を関わらず、症状の段階によって「免疫障害者」として障害者認定を受けられます。都道府県の障害者医療費減免制度のもと、低価格で治療を受けることができるようになっているそうです。
HIV検査については、都道府県によって無料、または低価格で受けられますので、是非お住いの都道府県HPで調べてみてください。
以前に埼玉在住の友人がHIV検査を毎年受けているという話を聞き(埼玉県ではHIV検査を無料で受けられます)、今考えると私のHIVやエイズへの関わりの始まりだったように思います。
まとめ
HIV感染後に対処しなかった場合の致死率は非常に高いものの、現在では様々な治療によりエイズの発症を抑えることができるようになっています。製薬会社が症状を和らげる薬品を途上国に無償提供する動きもありますが、未だ国によっては多くの貧しい人々が薬品の恩恵を受けることは困難な場合があります。
また、HIV感染者に対する差別や偏見は根強く、社会的に厳しい位置に追いやられる方が多くいます。
HIVは普段の生活の中で感染する事はまれですし、感染したとしても直ちに死に至るわけではなく、治療薬を投与しながら長く付き合っていくウイルスとなります。
感染者本人や周りの人々が正しい知識を身に付けるのはもちろんの事ですが、それ以外の非感染者の人々もHIVへの正しい理解を持って、はじき出される人のいないような社会になるといいですね。
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