アフリカ、マラウイの教育システムはどのようになっているのでしょうか?
各国それぞれ特有の教育システムを持っていますが、マラウイも日本とはちょっと違う教育システムを持っています。
マラウイの初等教育から高等教育までどのような形になっているのか紹介します。
私のマラウイ生活で得た個人的な経験ベースでお伝えします。
この記事ではマラウイの教育システムに絞って書いています。
教員や教育での問題については別の記事で書く予定です。
アフリカ、マラウイの教育システムとは?
マラウイの人口は現在1,800万人を越えていて、その50%以上が19歳以下の未成年と子どもです。
19歳以下というのはその多くが学校教育の対象となる人々ですので、教育が与えるマラウイ社会へのインパクトが人口分布でもかなり大きいことがわかります。
基本的なマラウイの教育システムはこのような形になっています。
- プライマリースクール(小学校):8年
- セカンダリースクール(中高等学校):4年
- 大学・職業訓練校:1年~4年
旧イギリス植民地ですので、教育に関わらず基本的な社会システムはイギリスの仕組みを取り入れています。
教育についても同じですね。
合計での教育年数は16年間で同じですが、割り振りがちょっと違いますね。
次に教育に充てられている予算です。
マラウイの教育予算
マラウイの国家予算の約2割が教育に充てられています。
アフリカ諸国では国によって様々ではありますが、だいたい国家予算の10~20%くらい教育に充てているところが多いです。
ですので、約2割を教育に使用しているマラウイは、平均よりもちょっと多いくらいになります。
とは言え、元々の国家予算規模がそれほど大きくないので、教育予算が充分ではないということは抑えておかなければなりません。
教育予算のうち、半分は教員の給与に使用されています。
マラウイでは前政権の時に教員の給与不払いが時折起こっていましたが、給与の教育予算への影響が大きいことが原因の一つです。
現在でもマラウイの教員達は給与の支払いが行われるのか、毎月の支払い日前後に自分の口座を毎日チェックしています。
教育機関の組織構造を紹介します。
マラウイの教育機関の組織構造
教育機関のトップは教育大臣になり、その下に各機関がぶら下がっている形です。
大臣と副大臣、その下に事務次官(Secretary)がいるのは日本と同じですね。
大臣と副大臣は国会議員から選出され、事務次官は官僚トップになります。
マラウイ国家試験委員会(MANEB)は、プライマリースクールの卒業試験となるPSLCEや、セカンダリースクールの卒業試験となるMSCEの実施を行う機関で、一応独立した機関になっています。
Higher Educationの下には大学、職業訓練校などの高等教育機関が配置され、Basic and Secondary Educationの下には、各学校がそれぞれぶら下がる教育学区が6つ存在しています。
北から順にこのような名称になっています。
- NED :North Education Division
- CEED:Central East Education Division
- CWED:Central West Education Division
- SEED:South East Education Division
- SWED:South West Education Division
- SHED:Shire Highland Education Division
各Edication Divisionの下に、複数のCluster(セカンダリースクール)とZone(プライマリースクール)がある形です。
そして、ClusterとZoneの中に各学校が存在しています。
全国には約8,000校ほどのプライマリースクールとセカンダリースクールがあります。
だいたいですが、一つのClusterとZoneに10~20くらいの学校があり、各Education Divisionに20~30くらいのClusterとZoneがあるといった感じでしょうか。
では、実際にマラウイの子ども達の進学率や就学率はどのれくらいなのでしょうか。
マラウイの教育状況
マラウイでは小学校教育が無償化されたお陰で、小学校に入学するまでの就学率はかなり向上しました。
約98%の子どもが小学校に入学しています。
しかし、ここからマラウイでの教育の難しさが出てきます。
小学校に入学した子どもたちの半数しか最高学年である8年生(Standard 8)に到達できません。
そして、8年生の最後にある卒業試験PSLCEを取得できるのは、そのうちの30%ほどです。
なかなか厳しいですね。
PSLCEを取得するとセカンダリースクールへ行く資格が得られるのですが、実際にはその合格者のうちの半数しか進学をしません。
セカンダリースクールは無償ではないので、経済的に進学させられない家庭は相当多いはずです。
セカンダリースクールに進学し、卒業試験となるMSCEを取得するのは、セカンダリースクールに入学した生徒の更に半数です。
そして同然ながら、大学や職業訓練校はセカンダリースクール以上に学費がかかりますので、大学へ進学できる成績でMSCEを取得したとしても、進学することは容易ではありません。
最終的に、マラウイで大学に進学する子どもは全体で1%もいません(0.5%ほどとも言われています)。
しかもこの1%は私立校に通えていたり、都市部にある進学校に通える子どもがほとんどですので、農村部から大学に進学するような子どもは神童扱いだと思います。
実際に、全国トップの公立セカンダリー校に進学する生徒は、農村部のプライマリースクールでは年に一人か二人程度しかおらず、相当賞賛されるそうです。
それではもう少し詳細にプライマリー、セカンダリー、大学などについて紹介していきます。
アフリカ、マラウイの初等教育システム
マラウイ国内にプライマリースクールは公立・私立併せて6,000校ほどあります。
各校生徒が1,000人~3,000人ほどいます。
プライマリースクールは1学年から8学年(Standard 1~8)ですので、各学年150人~300人いて、農村部では1クラス100人越えるところがざらにあります。
子どもの人数に対して、先生も学校も足りない状況なので、混沌としたクラス管理がされています。
このような状況ですので、学校によっては午前と午後で生徒を入れ替えるダブルシフトを採用しているところも多くあります。
マラウイのプライマリースクールは1994年に無償化され、授業自体には費用がかかりません。
ただし、教科書・制服は自分で用意しなくてはならないので、経済的に厳しい家庭だと、教科書を持っていなかったり、服を自前で用意したりしています。
全ての学校の規定を把握しているわけではないのですが、制服は基本的に色や形がだいたい規定内であればOKなようです。
農村部だとお下がりや手作りで服を作っている家庭が多いと聞いています。
マラウイのプライマリースクールも日本の小学校と同じく、6歳から入学することになっていますが、1学年時点で15%は6歳を越えています。
事情は色々考えられますが、当然ながらほとんどが家庭の問題(家事労働・経済的理由)です。
農村部ではそもそも正しい年齢のわからない人もいます。
出生届けを出していなかったり、国家IDを取得していなくて事後申請していて適当な年齢を登録しているという人はよく聞きます。
私の同僚にも国家ID掲載の誕生年が、自身の認識している誕生年と異なっている人がいます。
マラウイの公用語はチチェワ語と英語ですので、授業科目にチチェワ語と英語があります。
ただ、生活言語はチチェワ語なので小学生の多くはチチェワ語を話します。
農村部に行くと、子どもに英語はほとんど通じません。
一応カリキュラム上では、プライマリースクールは5年生(Standard 5)から英語での授業がはじまることになっています。
しかし、実際はなかなか難しく、私の把握している限り、ほとんどの公立プライマリースクールでチチェワ語で最後まで授業やっている印象です。
Standard 7、8あたりで英語も少し交えている感じでしょうか。
セカンダリースクールでもチチェワ語混じりで授業をやっているところは多いので、英語教育はなかなか難しいところです。
先ほど紹介したように、マラウイの子ども達の98%が就学し、そのうち30%だけが卒業試験PSLCEを取得し、そのうちの半数だけがセカンダリースクールへ進学することになります。
要するに、100人の子どもがいたら15人未満しかセカンダリースクールへ進学していないということですね。
ここに紹介した状況は基本的に公立校での話になります。
数は多くないですが、教会系の学校も含めて私立校もマラウイにはあります。
私立校は高所得家庭や外国人の子どもが入学しているので、PSLCEの成績も公立校よりもかなり上です。
ですので、公立と私立の状況は相当違うと考えてもらって間違いないと思います。
(チャリティ系の低費用で行ける私立校も一部にはありますが、かなり少ないです)
次にセカンダリースクールの状況です。
アフリカ、マラウイの中等教育システム
マラウイには、公立のセカンダリースクールが1,100校、私立が400校弱あります。
セカンダリースクールは1学年~4学年(Form1~Form4)までです。
プライマリースクールと同じく、公立と私立の状況は大きく異なりますので、ここで紹介するのは公立校を基本にしています。
セカンダリースクールからは授業費が必要になります。
学校によって異なりますが、1学期(3カ月半ほど)で授業料も含めて諸費用計MK6,000~MK10,000(約800円~1,340円)ほどです。
セカンダリースクールも、プライマリースクールほどではないですが、先生と学校の数が足りている状況ではありませんが、数字だけ見ると、現状のままならやりようによっては大丈夫なようにも見えます。
ただ、当然ながら政府は教育に力を入れていますので、プライマリースクールの状況が解消されていけば必然とセカンダリースクールへの進学者が増えることになるので、改善はしていかなければならないのだと思います。
セカンダリースクールでは1学年に150~200人ほどで、1クラス50~60人くらいでしょうか。
プライマリースクールの状況から見ると、かなり環境は良さそうですが、日本のクラス単位の学生数と比べると多いですよね。
セカンダリースクールだと、全寮制の学校もあります。
成績トップの公立校になると、全国から生徒がやってきますので、寮が無ければ通学が難しい生徒は多くいます。
また、寮だと基本的に生徒は学校の敷地外に出ることはあまりないので、通学よりも安全です。
このことから、女子生徒やアルビノの生徒が選んで入学するケースは多いです。
特にアルビノの生徒については、教育省の方で優先して全寮制の学校に割り振っています。
アルビノの問題についてはこちらの記事を参考にしてください。
セカンダリースクールでもダブルシフトやオープンデイスクールを行っている学校があります。
オープンデイスクールは、日本でいう定時制の学校で、通常のセカンダリースクールの授業後に、仕事をしている人やセカンダリー課程を再度受けたいが通常の授業料が払えない人などが通学しています。
オープンデイスクールでも学校側は授業料をもらっていますので、重要な収入源の一つでもあります。
このようにセカンダリースクールで4年間勉強した後、卒業試験にたるMSCE試験を受けます。
MSCE試験の成績によって大学に進学したり、経済状況を見つつ進路を決めます。
プライマリースクールの時は、100人の子どもがいたら15人未満がセカンダリースクールへ進学したわけですが、この15人未満の内、半数しかMSCEを取得できていません。
要するに、100人の子どものうち、セカンダリースクールの卒業に相当する子どもは7人以下となります。
そして、この中から大学や職業訓練校に進学する生徒がいるわけですが、大学へ進学する人はこの7人の中から1人未満です。
200人の子どもがいたら1人いるくらいの確率です。
冒頭で公立と私立の状況は大きく異なるという話をしましたが、MSCEの上位成績取得生徒を見るとわかります。
毎年、成績上位に来ている生徒のほとんどが私立校に通っています。
もちろん生徒によって差は異なりますが、一般的に私立校と公立校の学力差はけっこう開いています。
最後に、高等教育となる大学・職業訓練校です。
アフリカ、マラウイの高等教育システム
マラウイには大学はありますが、多くはありません。
全国に20校ほどあるとされていますが、残念ながら私は詳しく把握していません…。
教員育成大学を除くと、国立大学は今7校になります。
- University of Malawi(UNIMA)[Chancellor College]
マラウイ大学 - College of Medicine
マラウイ医科大学 - Kamuzu College of Nursing
カムズ看護大学 - Polytechnic
マラウイ工科大学 - Mzuzu University
ムズズ大学 - Malawi University of Science and Technology(MUST)
マラウイ科学技術大学 - Lilongwe University of Agliculture and Natural Resources(LUANR)
リロングウェ農業資源大学
UNIMAは元々複合大学だったのですが、2019年にCollege of Medicine、Kamuzu College of Nursing、Polytechnicが分離したので、UNIMAに今所属しているのはChancellor Collegeだけのはずです。
国立大学とは言え、授業料はかなり高額です。
全ての学校は把握していないのですが、MUSTで年間MK200万~300万(約26万9,000円~40万3,000円)が必要になります。
ただ、大学まで進学できて無事卒業できれば、マラウイ人として完全に勝ち組となります。
また、私立などに通うトップの中のトップやお金持ちの生徒は、海外の大学に行く生徒もいます。
全生徒からするとごく一部ですが、南アフリカや中国、イギリス、アメリカなどに進学する人もいます。
これら以外に国立の2つの大きな教員養成大学があります。
- ドマシ教員養成大学
- ナリクレ教員養成大学
セカンダリースクールの教員を目指す人は、これらの養成大学やChancellor Collegeで勉強する人が多い印象ですね。
これら以外に大学ではありませんが、多くの職業訓練校があります。
農業、服飾、ITなど色々な技術を習得することができます。
まとめ
マラウイの教育システムは、日本と同じく教育省をトップに各組織がぶら下がっています。
プライマリースクール8年、セカンダリースクール4年、大学4年という形で進学していきます。
しかしながら、大学に進学するのはマラウイの子ども全体の1%未満です。
教育は国家形成に大切な要素で、教育が改善されると、経済・文化・医療など多くの分野での問題解決が期待できます。
目下のところ、マラウイではセカンダリースクールの卒業(MSCE取得)率をもっと上げたいところです。
マラウイの教育環境は毎年かなり良くなってきていますが、これからもまだ継続した改善が求められています。
いまだ問題山積のマラウイの教育分野ですが、政府には経済発展と共に教育に力を入れて行って欲しいです。
この記事では教育分野での問題点については割愛しました。
別の記事で書きたいと思っています。
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