マラウイ政府は2021年5月20日に約20,000接種分に及ぶコロナウイルス(Covid-19)ワクチンを焼却破棄しました。
今アフリカでは、マラウイに引き続き、南スーダンでもワクチンの破棄を予定しており、コンゴ共和国では大量のワクチンが接種しきれない状況が懸念されています。
なぜマラウイを筆頭に貴重なコロナワクチンを破棄する国があるのでしょうか?
私のマラウイ生活で得た個人的な経験も踏まえつつ、マラウイがコロナワクチンを破棄する2つの理由をお伝えします。
アフリカ、マラウイのコロナウイルス感染状況とワクチン接種の進捗は?
まずは現在のマラウイのコロナウイルスの感染状況について見てみたいと思います。
2021年5月20日時点では、累積延べ陽性者数34,251人、コロナ死亡者1,153人となっており、5月20日の新規陽性者数は13人です。
マラウイの人口は2,000万人弱ですので、日本と比べると数字上はかなり落ち着いています。
マラウイでは昨年6月ころに第1波が来て、今年の1月に大きな第2波を経験しました。
第2波の時には医療崩壊かと思われるほどに陽性者数が激増しましたが、コロナ専用の簡易病院を突貫で建設するなどでなんとか乗り切りました。
あの時はかなり焦りましたね…。
マラウイでのワクチン接種は4月の初旬から始まっています。
マラウイで使用されているコロナワクチンはインド産の「アストラゼネカ」のワクチンになります。
インド、アフリカ連合、Covaxなどから合計512,000接種のアストラゼネカワクチンを受け取っています。
マラウイには、中国からのワクチン提供の話は出ていないが不思議だったのですが、外交上あまり重要な国だと思われていなかったのかもしれません…。
4月から接種が始まったとは言え、進捗はいまいちです…。
2021年5月20日時点で339,481人が一回目の接種を受けており、全国民の2%程度です。
だいたい日本と同じくらいの接種率じゃないでしょうか。
医療従事者や高齢者の接種から開始して、今は18歳以上の全ての人を対象としていますが、接種スピードは改善される気配がありません。
理由は後ほど説明したいと思います。
このような中、マラウイ保健省は2021年5月19日に、せっかく手に入れた20,000接種分近くの大量のコロナワクチンを破棄しました。
なぜこのようなことが起きてしまったのでしょうか?
アフリカ、マラウイでコロナワクチンを焼却処理した2つの理由
マラウイ保健省と政府はアフリカ諸国では初となる、ワクチンの破棄を行いました。
計19,610接種分を焼却処分しています。
直接の理由は、メーカー指定の使用期限が切れたからです。
ではなぜ有効期限を切る前に使い切れなかったのでしょうか?
理由は二つです。
準備不足とワクチンへの不信感です。
アフリカ、マラウイでのワクチン接種への準備不足
期限切れで破棄となった理由の一つが準備不足です。
ワクチン到着後、予定よりも早く翌週には接種が開始されましたが、会場は国内の4大都市のみで実施されました。
しかし、ワクチンが到着していない、会場の準備ができていないなど各会場でトラブルは発生していました。
破棄したワクチンの使用期限は4月13日。
Covaxなどからのマラウイへのワクチンは、3月26日にカムズ国際空港に102,000回接種分が到着しています。
3月26日の到着して4月13日が期限ということは、たった18日間しかなかったことになります。
この間に全て利用するのは、結構厳しかったんじゃないかと思います。
この準備不足と期限が短かったということを考えると、個人的にはかなりうまくやれたんじゃないかと思っています。
だって、ここはマラウイですからね…笑
正直、もっと混乱すると思っていました。
初回の102,000回接種分のうち、19,610回分を破棄ということは、80%くらいは打ち切っているということになります。
マラウイの医療体勢から考えると、上出来なのではないかなと思っています。
私が感じる、今回の破棄の大きな理由は、この準備不足&期限切れが早すぎた、というところだと感じています。
しかし、もう一つの理由が今後問題となる深刻な課題です。
アフリカ、マラウイでのコロナワクチンへの認識改善
コロナワクチン破棄のもう一つの理由は、ワクチンへのイメージ改善です。
5月上旬にマラウイ政府がワクチンの破棄を発表した際、WHOは期限切れのワクチンは効果があるので捨てないように発表していました。
(その後WHOは、5月17日に声明を覆して期限切れのワクチンは破棄するように発表しています)
そのような中でマラウイ政府は破棄を断行しなければならない理由がありました。
マラウイではコロナワクチンやアストラゼネカワクチンに対して不信感が高まっています。
特に農村部で強いように見えます。
ワクチンがマラウイに来る前は、国民のワクチンへの期待度はかなり高かったはずです。
「ワクチンが特権階級に牛耳られるのではないか」という噂も出るほどでした。
しかし、その期待が段々とマイナスへ向かって行きます。
マラウイでも他の途上国と同じく感染症が多いので、「ワクチン」自体に何かおかしな迷信を持つ人は少ないのですが、コロナワクチン(特にアストラゼネカ)についてのネガティブな報道が影響しているように思います。
まず一つ目が「南アフリカ変異種に対して効果が低い」というWHOの発表です。
ちょうどマラウイに「南アフリカ変異種が来ているのでは?」とされ、新規陽性者が増えていたところでのこの報道だったので、ワクチンへの期待感が下がったのは間違いないと思います。
そして決定打が「アストラゼネカワクチンの使用により、血栓による死者が出た」という報道です。
これを受けて世界の複数国でアストラゼネカワクチンの使用を一時的に止めたことにより、このワクチンへの期待はなくなり、逆に恐怖を感じる人が出てきたはずです。
このネガティブなイメージにより、現在マラウイでは全国民の2%という低い接種率となっており、接種者の数は毎日少ないままです。
個人的にマラウイ政府はいい判断をしたと思っています。
このイメージの悪さに加えて、期限切れのを打たされる、となると更に接種者は少なくなったのではないでしょうか。
政府は農村部にスピーカー付きの車を走らせて、ワクチン接種やコロナウイルスについての正しい情報を国民に伝えようと頑張っています。
そして最後にもう一つの最近のコロナの状況から来る理由です。
ここ一カ月半ほどはマラウイ国内の新規陽性者数は低水準で推移しています。
連日0人~20人ほどでしょうか。
このような状況ですので、当然ながら国内はかなり緩い雰囲気になっており、人によっては「コロナに勝った」という人もいるほどです。
屋外でマスクをしていない人も結構います。
この少ない陽性者数、ワクチンのマイナスイメージだと、どうしてもワクチンを接種しよう、とはならないですよね。
現在かなり落ち着いているマラウイなのですが、世界の国々が経験している第3波、第4波はマラウイにやってくるのでしょうか?
アフリカ、マラウイにコロナウイルスの第3波はやってくる?!
マラウイに第3波はやって来るのでしょうか?
マラウイでは今年1月の第2波をピークに「もう終息したのか?」と思えるほどに落ち着いています。
世界の各国で第3波、第4波が来ている中、ワクチン接種率2%のマラウイに来ないというと言い切ることはできないと思います。
すでにピークは過ぎましたが、今インドでは感染が大流行しており多くの死者を出しています。
そして、そのインドの大流行直後に、マラウイのサリマで10名以上のインド人がインドからの入国後に陽性者として記録されています。
インドはマラウイと政治的にも経済的にも繋がりの強い国で、国内にはインド国籍のインド人やインド系マラウイ人が多く生活しています。
5月22日時点ではインドからの航空便は止められていますが、数日前までは普通にインドからの渡航者はマラウイへ入国していたそうです。
このようなことから、インド変異株の流行の懸念が国内の医療専門家から出されています。
国民のコロナ対策への関心が下がる中、陸路の国境警備も徐々に緩くなってきているといいます。
このような状態のまま、ワクチン接種が進まないなら、第3波が来てもおかしくはないと私は考えています。
まとめ
マラウイ政府がアフリカで初めて19,610接種分ものアストラゼネカのコロナワクチンを焼却破棄したのには2つの理由がありました。
- 期限切れの近いワクチンを素早く接種する準備ができていなかった
- ワクチンへのネガティブなイメージの払拭
副次的な理由にはなると思いますが、現政権は汚職対策にかなり力を入れており、「クリーンな政府」を相当意識しています。
そのような方針の中、期限切れのワクチンを国民に打つことは政治的なイメージとしても頂けないものだったのだと思います。
マラウイ国内は今、コロナに対して相当な楽観ムードとなっており、私の同僚も「第3波なんて来ない」というのが多数派です。
6月上旬に第2回目の接種を開始予定となっていますが、接種率は低いままでは意味がありません。
この陽性者数の落ち着いている間に、ワクチン接種をできるだけ進めたいと政府は考えているはずですが、国民を動かすのはなかなか難しそうです。
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